杉山 正 Brass Camp 2012レポート1

〜 すべての金管楽器奏者と金管楽器指導者のための 〜

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更新日 2017-09-22 | 作成日 2008-05-14

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Masashi Sugiyama Brass Camp 2012@ ゾンタック フォーレス館

2012.7.14 (第1日目)

連休初日、快晴ではないものの梅雨明け間近と思われるまずまずの天気でブラスキャンプ2012がスタートしました。今回も北は札幌、旭川、西は山口や福岡から熱いブラスプレーヤーがたくさん参加してくれました。
写真.JPG成田空港でラリー夫妻を出迎える杉山
4回目となった今回は幸運にも、クラウド・ゴードンブラスキャンプで "Construction and care of brass instruments" (金管楽器の構造とそのケア)の講師だったラリー・スーザを特別講師に迎えることが出来たことは大変意義のあることだったと思います。
そのラリー・スーザ夫妻が野本会長のエスコートで会場入りをすると、すでに会場入りをしていた参加者の方々から歓声があがり、いかにラリーのレクチャーを楽しみにしているかが感じられました。


オリエンテーションに続くオープニングでは、2010年にジャズインプロヴィゼーション講師として参加してくれたLA在住のピアニスト&作曲家 Jordan Seigel がこのブラスキャンプのために作曲してくれたファンファーレをスタッフの熊谷裕一指揮のもと全員で演奏しました。音と音が触れ合ったところで第4回杉山正ブラスキャンプの開幕です。

1限目はホストの杉山 正による「ブリージングエクササイズと舌の動き」について。

swift.jpgGeorge Swiftが演奏しているグリッサンド譜例アメリカにおいて19世紀の終わりから20世紀初頭には偉大な金管奏者が大勢存在していました。彼らは現在ほとんどのプレーヤーが苦戦している高音域を自在に操り、ペダルノートからハイノートまでバイオリンを演奏するがごとくいとも簡単に演奏していました。その彼らがいったいどのような演奏をしていたのか、同時にこのブラスキャンプで行われる内容のイメージを持ってもらうべく、コルネット奏者 George Swiftと、スーザバンドのソリストであったトロンボーン奏者 Arthur Pryorの演奏を聞いてもらいました。
参加者の皆さんがこのブラスキャンプで勉強するのは当時彼らが行っていた奏法です。まず、クラークからゴードンに伝わったブリージングエクササイズ(呼吸の練習)。「空気が入るのは唯一肺で、肺は車のガソリンタンクと同じ。肺を取り巻く呼吸筋をスキューズ(締め上げる)することによってエアーをコントロールする能力も養われて行きます。もし、”腹に空気を入れろ”と世間で言われているようにお腹に空気が入ってしまいお腹の筋肉を締め上げたら先ほどお昼に食べたカレーが出て来てしまいます」などど冗談を飛ばしながらやり方を説明して行きます。

CG_chestup.jpgゴードンから伝授された2種類のエクササイズとは、

  1. CHEST UP 良い姿勢で立ち、胸を上げます。この時、呼吸筋が使われ肺が少し大きくなることに注目します。
  2. BIG BREATH 胸を上げたまま口からエアーを吸い込みます。
  3. BLOW 胸を上げたまま息を吐き出します。この時に使われる筋肉が演奏時に使われる筋肉です。

この練習は10回ワンセットで1日に5回行います。アマチュアもプロも歳も関係なく、プレーヤーである限り呼吸筋は毎日鍛える必要があります。毎日練習する時間がなくても、楽器を持たずにどこでも行えるのでおすすめのエクササイズです。
肺の周りの呼吸筋を鍛えることによってエアーパワーが増し、長時間演奏しても疲れにくい奏者となって行きます。チェストアップをしたまま息を吐く時に呼吸筋や背筋が収縮した感じが得られます。これが重要なポイントでこれらの筋肉、特に一番強力な背筋をうまく使えるようになると耐久力もハイノートもサウンドも極端に良くなって行きます。

続いて、5歩吸って5歩止めて、5歩吐いて5歩止める という歩きながら行うブリージングエクササイズを行います。外で行うので口ではなく、鼻から吸います。1ヶ月経ったら1歩ずつ増やして10歩まで行きます。

音程は舌が動くことによって変わります。つまり舌の動きがスムーズになることによって演奏がどんどん楽になって行きます。舌を訓練する方法としてあげられたのはロングトーン。ただ1つの音をロングトーンするだけだと口内では何も行われませんが、pp < f >pp と行うことによって舌が動くことを確認し合います。舌を下の歯の付け根にセットしてppからスタートします。(スーパーロングトーンより) fからppデクレッシェンドして行った時に舌がすごく上がって来ることを感じながら皆で実践し、ppポジション=ハイノートポジションであることを学びました。
この他にシラブルが、ア→イと変わることで音程が変化すること、高い音になったらエアーを強く吹き込むこと、アンブシュア(唇の位置)、マウスピースだけのバズィングは楽器で演奏する抵抗と違うのでNGであること、口輪筋をいくら鍛えても効果がないどころか悪癖となってしまう...などの話がありました。

第1日2限目

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2時限目は松崎講師によるクラシックアプローチ。
今回はご自分の録音素材を使って、時代の流れとトランペットの使われ方の変遷についてのレクチャーです。


バロック時代ーテレマンの協奏曲やバッハのブランデンブルグ協奏曲2番にあるように超高音が必要とされた時代。
古典時代(ハイドン、モーツァルト、ベートーベンあたりまで)は高音を演奏する曲がなくなり、ティンパニィと同様なリズムを補強するパートとなってしまった。
ロマン派時代ー1800年中頃にピストンの発明でコルネットがソロ楽器のひとつに加わった。吹奏楽が流行しクラークもその中で生まれた巨人の1人である。

この他にピッコロでバロックを演奏する場合に留意する点、オーディションについて話されました。オーディションは体力勝負であること、ウォーミングアップするだけで吹く本番設定のシュミレーションを数こなすこと、そして課題曲を1日5回繰り返しても大丈夫なウィンドパワーをこのブラスキャンプで学んで欲しいと話されました。
今回とても興味深かったのは、”オーケストラのオーディションを体験してみよう” という新しい試みです。課題曲はマーラーのシンフォニー5番とストラビンスキーのペトルーシュカ。2日目のアンサンブル発表会でオーディションをシュミレーション体験するため6名がエントリーしました。

ディナー!!

前回の夕食も大変おいしかったのですが、今回はそれを上回るメニューの多さと美味しさに、ラリー夫妻もリピーターも大満足。ちなみにラリー夫妻は「これがキャンプフード!? 信じられない...」と目を丸くしていました。

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P1020749.JPG右回りにスープ、タンドリーチキン、鴨のロースト、ホタテのマリネ、白身魚のグラタンP1020752.JPGP1020753.JPGP1020754.JPG

第1日3限目

P1020762.JPG夕食後は、金管演奏の原理に書かれているラリー・ミラー医師の考察「トランペット演奏における横隔膜のX線透視実験について」の項を福田先生による丁寧な解説でより理解を深めます。

楽器演奏には「横隔膜を鍛える」「腹式呼吸が大事」とは非常に良く言われるものの、トランペット演奏において横隔膜がどんな役割を担っているのか誰も「見た」ことがない。「横隔膜の強化」がはたして演奏につながるのか、またそれは可能か...?

P1020765.JPG死体検査や外科的検査の際に見られる横隔膜は非常に薄い細胞層であるため、この器官がトランペット演奏に貢献することを期待するのは少し思い違いがあるのではないか、などなどの疑問に、実際に吹奏した時の横隔膜の位置や息を吸った時に起こる横隔膜の通常の動きを図解、そして動画を交えながら丁寧に解説して下さいました。
エアーを入れる胸郭の容積を拡大し、絞り上げる働きをする筋肉群を発達させるためにはチェストアップ、およびブリージングエクササイズが有効且つ合理的であること、が理解されました。

第1日4限目

P1020742.JPG今夜のレクチャーはバッチリだぜ!ポーズを取る内田講師。左は堂本講師。ホスト杉山 正の高校時代からの同級生で、名立たるビッグバンドを経験しSerendipity18ではリードトロンボーンを担当している内田講師は、今回の課題曲 "When You're Smiling" と "Take The A Train" のブラスセクションパートを熱く、時にジョークを飛ばしながら指導してくれました。ジャズではクラシックや吹奏楽では見かけないリズムパターンや音が使われます。初見では楽譜を見てただ演奏するだけでなく、ジャズ特有のリズムを感じながら歌ってみる、音の出だしと終わりでビートが生まれるなどジャズ初心者はもちろん経験者も目から鱗の話がたくさんありました。
P1020799.JPGアドバイスされたようにビートやジャズのニュアンスを感じながら演奏すると見る見るうちにカッコ良くなって行くフレージングに聴衆も演奏にトライした参加者もびっくり。あり得ない時刻(21時)から始まったレクチャーですが、誰もが心から楽しんでいるようでした。


最後に講師、スタッフによるお手本が2曲披露され、初日が無事終了となりました。
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曲はGordon Goodwin アレンジの "Beauty and The Beast"
Trumpets
杉山 正(リードtp) ラリー、長堀史、松崎祐一
Trombones
左から由井崇、内田日富(リードtb)、松崎翔、堂本雅樹(B.tb)



P1020819.JPGそしてSammy Nesticoの トロンボーンセクションをフィーチャーした"You & Me "
Trumpets
ラリー・スーザ(リードtp) 杉山正、長堀史、松崎祐一、角雅晃
Trombones
左から由井崇、内田日富(リードtb)、松崎翔、堂本雅樹(B.tb)



初日から次から次へ盛り沢山の内容が繰り広げられたゾンタック別館のフォーレス館がようやく静かになったのは24時過ぎ。闇の中にぽっかり浮かぶフォーレス館は、参加者達の熱いオーラを静かに包む、まるでハリーポッターに出て来るホグワーツ校のよう(笑)。
明日に続くレクチャーやイベントに備えてシーンと静まり返るのでした。