処方箋と教則本
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初めての(1979年)処方箋とIron



Ironは20世紀において、初めてタングコントロールについて詳しく書かれた教則本で、後に書かれたフレキシビリティの教則本に多大な影響を与えました。
ゴードンは初心者と問題を抱えている人達以外のほとんどの生徒に最初にこのIronを与えました。1979年に渡米して初めてゴードンのレッスンを受けた私に処方してくれたこの教則本は忘れ難いものとなっています。もちろん私の著書「Flex Tongue Build」にも多大な影響を与えました。
IronについてはMy Storyのページで詳しく説明しています。![]()
2010年5月21日
1987年の処方箋と教則本 " World's Method "
ゴードンに師事して8年後の1987年8月29日、処方箋にWorld's Methodが加わりました。この教則本については「金管演奏の原理」p12、教則本とその重要性の項に載っていますが、書いてある通り、先行するいくつかの教則本を元にして、タング、トリル、インターバル、曲..... などあらゆる重要な要素を取り入れて編集された素晴らしい教則本です。偉大なる教則本の集大成と言ってもいいかも知れません。これが加わったことはアドバンスになった証明でもあるので、一番興味があった教則本でもあり、非常に嬉しかったことを覚えています。練習して行くうちに更なるレベルアップを感じたのは言うまでもありません。
この教則本は当時すでに絶版となっており入手不可能だったため、分厚い教則本にもかかわらずゴードンは私のためにすべてのページをコピーしてくれたのでした。今思い出しても感謝の気持ちで胸がいっぱいになります。
譜例は左よりWORLD'S METHOD の中のEighteen Brilliant Studies on the Art of Phrasing, #10、Thirty Short Studies on the Art of Preluding, #30、St. JacomよりBroken Chords。薄く書かれているマークや字、指使いはゴードンの直筆
1979年の処方箋 教則本の裏メニュー

右の処方箋は初めてレッスンを受けた1979年7月8日〜17日のものです。これから2週間ごとに処方箋が増えて行く訳です。
教則本はそれを学ぼうとする奏者が著者と行き来出来るタイムマシンのようでもあり、そこから多くを学びとることが出来ます。しかし、そこには著者のアイデアの氷山の一角しか表されていないと感じたのは、2枚目の処方箋を渡された時でした。
ゴードンの代表的な教則本、Systematic Approach to Daily Practice(以下SA) は52パターンからなる教則本ですが、2週間後の処方箋にはLesson 2 のPart IIをこのモデルで練習するようにと、五線譜が加筆されました。3枚目になると同じPart II が他のモデルに変わりました。
このようにSAでは1つのLessonに対して複数のモデルが存在したので、52パターンどころか実は数百のエクササイズパターンが存在することになります。
SAに限らず私はゴードンのもとで著書以外にも数十冊の偉大な教則本の指導を受けました。しかし過去の偉大な教則本はほとんど説明書きがなかったり、あったとしても、ごく一般的な挨拶程度のものが多いと感じています。
私はゴードンによって表に出ていない教則本の莫大な裏メニュー(彼のアイデアやクラーク等から伝わったものなど)を実践し理解することで著者までたどり着けるタイムマシンを手に入れることが出来たと思っています。ゴードンが私にしてくれたようにこれらを次世代に伝えて行くことが私のミッションだと思っているこの頃です。
1991年の処方箋 失われた教則本
左は1991年の処方箋ですが、ここからトロンボーンプレーヤーの PEDRO LOZANOが書いたフレキシビリティの教則本"Lip Training"
(1927年出版)が加わりました。
これはもともとフレキシビリティの教則本ですが、フィンガリング/ポジションも加味された複雑な素晴らしい教則本で、これをやったことによって演奏上の正確さが向上して行ったと思います。
しかし残念なことに現代では手に入らない幻の教則本となっています。
師事した17年の間にはこのように失われた教則本が随所に処方されました。もしまだ現存していればアドバンスレベルの奏者に恩恵を与えるものとなったはずなのに、このような優れた教則本が出版社などの都合や理解不足により無くなってしまうのは金管奏者達にとって大きな損失です。
当時もオリジナルが手に入らなかったため、ゴードンが自身の教則本をコピー、製本してくれました。コピーされた教則本でしたが、そこにはとんでもないギフトがあったのです。
レッスン後、ホテルに帰ってこのコピーを全編に渡って目を通したところ、そこにはゴードンがクラークに師事してこの教則本を学んでいた頃に書き込んだもの(3枚目)がすべて残っていたのです。
それを見ると、クラークのもとでゴードンがどのように成長して行ったかが手に取るように分かったのでした。これにはホテルの部屋で1人で大騒ぎでした。
1992年の処方箋と教則本 NU - ART Technical Exercises
1982年の処方箋と教則本 vol. 5 E. Williams

1982年7月より、Ernest Williams, Del Staiger, Schlossberg, 30 Velocity など数々の新しい教則本が加わりました。
この処方箋の一番上に書かれているE.Williamsについて「金管演奏の原理」では次のように書かれています。
アーネスト・ウイリアムスがCharles Colin 社から出版された彼の素晴らしい教則本の中で、"高音について”という題で語っている(190ページ)金管演奏に関するもう1つの卓越した見解を見てみよう。「私たちの努力が自然に要求するものと合致するならば、コルネットやトランペットで高音を演奏するのは難しい事ではない」と彼は語り、また続けてこう語るのである。一般には高音域を演奏するのは、中音域を演奏するより難しいと信じられている。これはまったく真実ではない。もし演奏者が適切に訓練され、正しい奏法を習得していれば、ある音が他のある音より出すのが難しいということはほとんどないのである」。
この教則本は金管演奏に必要な総合的な訓練が網羅されていますが残念な事にどう使用するのか説明がまったくありません。
私は一年間、この教則本をゴードンの指示通り終えたわけですが、なるほど、そう使うのか、ということが随所にありました。
入手困難な教則本の1つとなりましたが、もし私が今、これを初めて入手したとしても、ゴードンの導きがなかったら使用方法が分からず分厚い教則本を前にして途方にくれていることでしょう。
処方箋と教則本 vol. 5-II Del Staigers
1982年に加わった教則本 Del Staigers の "Flexibility Studies and Technical Drills" は初心者〜プロフェッショナルまで対応する、素晴らしいフレキシビリティの教則本です。ただ本中にいくつかのミスプリがあるので注意する必要があります。
1950年に書かれたこの教則本は35のフレキシビリティと14のテクニカル・ドリルから成っていますが、ゴードンのところではフレキシビリティの部分しか使いませんでした。
残念ながらこの教則本も絶版となってしまったようです。
20世紀にこのような金管奏者達の宝というべき多くの教則本が失わてしまいました。なんらかの理由があったにせよ非常に残念な事です。どこかの音楽大学がライブラリーとして保管/活用してくれれば、、、と人ごとのように思っていましたが、そのような気配がないので手遅れにならないうちになんとかしないといけないなぁ、と思い始めています。
著者 Del Staigers は偉大なコルネット奏者で「ベニスの謝肉祭」の素晴らしい録音が残っています。現在、世界の高名なトランペット奏者の何人かががこの曲に挑戦していますが、Del Staigersの演奏に比べるとサウンドのパワー、アタックの正確さ、ウインドコントロール、楽器の滑らかな操作能力において、大人と子供の感があります。
Del Staigersの演奏を聴く
処方箋と教則本 Vol. 6 Max Schlossberg
1982年の処方箋にはSchlossbergのDAILY DRILLS AND TECHNICAL STUDIES no. 21〜も加わります。

Max Schlossbergは1875年ロシアで生まれ、早いうちからモスクワ音楽院で教育を受ける。
その後ベルリンで著名なKozlic教授に師事し、その間ソリストとしてヨーロッパツアーを行った。
1910年にニューヨークフィルに入団し、亡くなる1936年までの26年間在籍。
同時にInstitute of Musical Artに教授として迎えられ、その後ジュリアード音楽院の教授となる。
マニーはよくCGキャンプに遊びに来ていました。ゴードンの隣がマニー
シュロスバーグはアメリカの音楽界に、多くの第一級の生徒を排出した事でもよく知られていますが、その中には高名なLAのトップスタジオTpプレーヤー、マニー・クラインがいました。
マニーはユダヤ移民の子供で、幼い頃貧乏でお金がなかったのですが、マニーの才能を見抜いたシュロスバーグが無料でレッスンを行っていたという話を聞いたことがあります。このマニーとクラウドは仕事仲間でもあり、大親友でお互いのエキストラをし合った仲でした。
この教則本も他の教則本と同じように一般的な説明しか書かれていないのですが、クラウドがこの教則本を弟子達に与える際に、マニーから情報、アドバイスの提供があったことは間違いありません。直弟子でなければ分からない重要な部分を、マニーを通してクラウドは私たちに明確に指示してくれました。
クラウドはこの教本をアドバンスレベルの生徒達に、より高度なタングレベルの発達を目的に使用させていました。
CGキャンプのレセプションで。後ろでふざけているのはジャズ・インプロヴィゼーションを担当していたDave
処方箋と教則本 vol.7 ALEXANDRE PETIT
1981年7月16日の処方箋。
この日からALEXANDRE PETIT(以下PETIT)が加わりました。
このPETITの"LA SEMAUNE DU VIRTUOSE"は私の最も好きな教則本です。
12のエクササイズから成るこの教則本はタンギング、スケール、スラーなど金管演奏に必要なすべての要素が、完璧に高度な次元でバランスよく配置されています。
12あるエクササイズのうち1は使いませんが、毎日の練習にこの一冊さえ練習すればプロフェッショナルプレーヤーが高度なレベルを保ててしまう非常に優れた教則本です。難易なものをシンプルに伝える事が出来るというのは、やはり天才の成せる業でゴードンに通じるものもあります。
金管楽器の教則本というと、とかくアメリカに目が向いてしまいがちですが、フランスの教則本にも優れたものが数多くあります。
教則本以外にもF. ベッソン、セルマー、クランポンなど世界の管楽器をリードした20世紀の優れた遺産がフランスにはあったと思います。
処方箋と教則本 Vol.8 Walter M.Smith
これは1985年7月の処方箋です。ここからWalter M.Smithの教則本「Lip Flexibility on the Trumpet」が加わりました。処方箋ではSmithとなっている部分です。
この教則本はIronと並ぶ20世紀における2大フレキシビリティの教則本だと思います。著者のWalter M.Smithはクラークと同様コルネットのヴァーチュオーソでした。
41あるエクササイズのうち、ゴードンのレッスンでは2〜10までのみ使用しましたが、レッスンを追うごとに2〜10を発展させたゴードン手書きのエクササイズが加わって行きました。
ゴードンは最高音をハイEまで発展させたものを渡してくれましたが、のちに私はハイG、、ダブルハイCまでアレンジさせたものを練習していました。リードトランペット向けの素晴らしい練習パターンです。
今年はこのエクササイズをリードトランペットプレーヤー、またはそれを目指す方々のための教則本「Flexible Routine for Lead Trumpet Player」(仮題)として出版する事を考えています。
処方箋と教則本 Vol.9 Aaron Harris
1986年8月よりAaron Harrisの「Advanced Daily Studies」が加わりました。
この教則本は20世紀において最も称賛されていた上級者のための金管教本です。
1st Study〜7th Studyで構成されているこの教本は、テクニック、音域、フレキシビリティ、耐久力、スケール、調号、様々なアーテュキレーションなどが、それぞれのStudyに30パターンあります。それらが見事にバランスよく配置されている「Advanced Studies」の名の通り上級者用の教本です。
私が使用したものはゴードンがコピーしてファイリングしてくれたものです。現在でも市販されていますが、加筆されたり、編集の順番がオリジナルのものとはまったく違ったものとなっています。非常に残念な事です。
ちなみにAaron Harrisの教則本はもう1冊「Advanced Studies For Trumpet」があります。
ゴードンのところではこの教本は数ある教則本の中でも最高に難しい部類に入ると言われていました。
処方箋と教則本 Vol.9 - 2 Advanced Studies by Aaron Harris
1986年の処方箋には前回紹介したAdvanced Daily Studiesに加えて,本編とも言える「Advanced Studies」が加わりました。
これは日常のエクササイズではなく、プレーヤーになるためのエチュード (曲対応)を中心とした、たくさんの要素が高度なレベルで構成
されている教則本で20世紀における金管教則本の最高位にランクされるものです。
ただこれも偉大な教則本の例に漏れず使用方法が書いてありません。
残念なことにこの教則本は日本ではほとんど紹介されていないようです。
これから専門家になるための音楽大学においても使用しているという話は聞いたことがありません。
日本に紹介されている教則本が偏っていたり、情報が不足しているのを感じざるを得ません。
*Aaron Harris
Arthur Pryor のバンドやJohn Philip Souza バンドのソリストとして
活躍した往年のヴァーチュオーソ。
処方箋と教則本 vol. 10 Arban's Complete Conservatory Method
1981年の処方箋にArbanが加わりました(写真左)
アーバンに関しては非常にショッキングだったことがあります。
私は高校生の頃日本のオーケストラプレーヤーにレッスンを受けていました。アーバン一辺倒だったその先生はレッスンでアーバンの他には
何もやりませんでした。その時の私は静岡から東京の先生の自宅まで新幹線で2年間毎週通い、アーバンだけをやり続けました。
上達に関しては、、、、、。
このトピックでアメリカと日本とでは教則本の使用方法が違うことに何度も触れていますが、特にアーバンに関しては最たるものでした。
その先生のアーバンの使用方法とゴードンが示してくれた使用方法があまりにも違ったので戸惑いを通り越してショックを受けたほどです。
ゴードンはアーバンについて
「金管楽器奏者で上達を臨む人は誰でも練習しなければいけない最も素晴らしい教則本のひとつだ」と常々レクチャーやレッスンで語っていた
ように、誰もが認める素晴らしい教則本です。
ゴードンはこうも言っています。
「100年以上も前の教則本なので改訂に改訂を重ねられてしまって元になっているArbanとはかなり違う。Arbanと同時期のSt. Jacomとは敵対視するほど仲が悪かったのに、Arbanの改訂版にはSt. Jacomの一部が載っており、St. Jacomの教則本にはArbanの一部が載っている。今頃二人とも天国で怒っているに違いない(笑)」
ゴードン自身が慎重に調査し、Edwin F. GoldmanとWalter M. Smith
が編集したアーバンに注釈を加えてアーバンの意図とするものを改訂版としてカール・フィッシャーから出版したのは1982年でした。ゴードンはその初版本を私にプレゼントしてくれました(写真右)この改訂版によって本当のアーバンの教えをダイレクトに受け取ることが出来るようになったわけです。Thank you Claude !
写真真ん中譜面の斜線はゴードン自ら引いてくれたもの。
2009年5月28日
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